法隆寺や興福寺など大きな寺院には専属の瓦大工がいましたが、そんな中で「日本の瓦の中興の祖」として今に名を残している人物がいます。室町時代の初期(1400年前後)に法隆寺の瓦大工だった橘吉重です。
それまでの瓦屋根は、軒先の瓦に釘を打って瓦が滑り落ちるのを防いでいたのですが、これだと腐食した釘が釘穴の中で膨張して瓦を割ったり、修理のとき瓦を破損したりして、なかなかやっかいだったのです。そこで吉重が考案したのが、釘を使わなくても滑り落ちない軒瓦です。軒先の木に丈夫な引っ掛かり部分をつけ、そこに瓦に設けた突起部分を引っ掛ける仕組みになっています。これは瓦の歴史の上で画期的な発明です。
彼はまた、繊細な文様や複雑な細工に向いた粘土を選んで使いました。これも前の時代から一歩を進めた彼の業績の一つです。
原料の粘土にきめ細かな配慮をしただけあって、吉重は瓦に自分の名を刻んだだけでなく、その瓦を焼くのに使った土のことを記すなど、瓦にさまざまな銘文を残し、これが中世の瓦技術を知る上での貴重な資料となっています。
室町時代には、無名でも数多くのすぐれた瓦大工が存在したはずです。これまでになかった形の役瓦(やくがわら)ができ、現在でも使われている本瓦葺(ほんがわらぶき)の瓦が完成したのも室町時代だと考えられるからです。
瓦の需要がそれほど多かったとは考えられないのに、有名無名の優秀な瓦大工たちが活躍して瓦の質が向上した室町時代は、瓦の中興の時代と呼ばれています。
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