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能登半島地震で被災された方へお見舞い申し上げます。
令和6年1月1日に発生した能登半島地震で被災された皆様にお見舞いとお悔やみを申し上げます。
3週間が経過した中でも被害の全容がわからず、多くの方が避難や不自由な生活をされており、一日も早く復興されますようにお祈り申し上げます。
CBCテレビ「屋根を瓦にしているから起きた災害と言われても否定できない」
この章の引用先:TBS NEWS DIG 「屋根を瓦にしているから起きた災害と言われても否定できない」 何トンという瓦が屋根の一番高い所に 倒壊相次いだ古い住宅の共通点は? 能登半島地震 (CBCテレビ「チャント!」1月24日放送より)
2024年1月1日午後4時10分。元旦の能登半島を襲った「令和6年能登半島地震」。マグニチュード7.6を記録したこの地震は、石川県・富山県両県に甚大な被害をもたらし、多くの家屋が倒壊しました。瓦屋根の家屋が多いこの地域は今、どうなっているのか現地を取材しました。
昔ながらの瓦屋根の家が多数倒壊…重い瓦が被害拡大の一因に?
震度7を観測した、石川県輪島市。瓦屋根の家が密集する黒島地区でも多くの家が倒壊しています。能登の瓦業者、中町利之さんによると、今回の地震では耐震補強がされていない古い瓦屋根の木造住宅が、とりわけ大きな被害を受けているといいます。
(中町かわら店・中町利之さん)
「もっともっと軽い瓦があればいいんですけど、ないんだろうな…(瓦は)やっぱり重たいです」
50年以上前に建てられたままという住居兼納屋の建物は、瓦の大半がはがれています。屋根に雨漏り防止のブルーシートを張る応急修理には現在補助金が出されていて、中町さんはその作業を請け負っていました。
足場を作る時間も費用もかけられない中、知り合いの業者に手伝ってもらい、はしご一つで屋根に上ってブルーシートを張っていきます。被災地一帯で不足しているブルーシートは、中町さんがSNSで呼びかけ、全国から届けてもらいました。
一軒の屋根を修繕するのに、3人がかりで4時間かかりました。あくまで応急処置ですが、雨風はしのげます。
(輪島市に住む・中前みよ子さん)
「(本格的にどのような補修をするか)年なので金銭面を考えながら進めていきたい」
この地震災害で、長年「瓦」を扱ってきた中町さんも一つの現実を突きつけられています。
(中町かわら店・中町利之さん)
「ガルバリウム鋼板屋根は(瓦と比べて)軽いんですよ。見た感じ、他の家と比べても破損していない。瓦は1枚が2キログラムくらい。それが何千枚とのるわけなんです。ただ置いてあるだけの何トンという瓦が、屋根の一番高い所にあるんです」
強い揺れに対する、古い瓦屋根の危険性を見せつけた今回の地震。今は軽量なものや耐震性を上げた工法もありますが、中町さんからはこんな言葉が。
(中町かわら店・中町利之さん)
「屋根を瓦にしているから起きた甚大な災害と言われても否定できない」
ここまで引用内容です。
「屋根を瓦にしているから起きた甚大な災害と言われても否定できない」は正しいのでしょうか?
現在、能登半島地震の調査結果が発表されていないので、同じ地域で昨年5月に発生した奥能登地震(震度6強)での調査報告書を紹介いたします。
令和5年奥能登地震の概要
令和5年5月に石川県能登半島沖を震源地とする地震が発生しており、その概要を紹介します。
①令和5年5月5日14時42分発生の地震
震源地:石川県能登半島沖(震源の深さ 約12km)
地震の規模:マグニチュード6.5
震度:【震度6強】珠洲市 【震度5強】能登町 【震度5弱】輪島市
②令和5年5月5日21時58分発生の地震
震源地:石川県能登半島沖(震源の深さ 約14km)
地震の規模:マグニチュード5.9
震度:【震度5強】珠洲市 【震度5弱】能登町
③被害の状況(令和5年6月3日)
住家被害 全壊30棟 半壊149棟 一部損壊473棟
令和5年奥能登地震の建物調査について
国土交通省国土技術政策総合研究所が公開しているプレスリリースを添付いたします。(令和5年6月19日)
石川県珠洲市内の木造建築物及び瓦屋根の調査報告書の内容は以下となります。
※被害の概要
・木造建築物で倒壊等の被害が大きかったものは、店舗併用住宅などで1 階の壁が
少なかったもの、伝統的な構法による古い住宅で壁量不足のものなどであった。
・倒壊・崩壊以外にも大屋根が崩壊した倉庫建築物、大きな残留変形を有する住宅
等もあった。寺社の鐘撞き堂の倒壊、墓石の転倒、ブロック塀の倒壊、アスファ
ルト舗装面の亀裂なども確認された。
・瓦屋根の被害は平部ではほとんどなかった。能登地方では古くから平部の瓦には
葺き土を使わず、緊結線などで全数留付ける工法であったためと考えられる。
・地震による屋根被害は棟部で発生。棟部は棟補強金物等がなく、緊結線で連結さ
せて葺き土で固める工法が多く使われていた。
・瓦屋根が「ガイドライン工法」で施工されたと確認できた2 棟は無被害であった。
全陶連(全国陶器瓦工業組合連合会)と(一社)全瓦連(全日本瓦工業連盟)は5月12日、国総研、建研の方と一緒に珠洲市内の屋根被害調査を行いました。
調査報告書について詳しくは国総研ホームページ及び建研ホームページで公開しています。
ダウンロード先URL: https://www.nilim.go.jp/lab/bbg/saigai/R5/notojishin.pdf
調査報告書の内容について(瓦屋根の建物における被害)
調査報告書の建物調査による瓦屋根建物の被害について紹介します。
- 瓦屋根建物が倒壊
- 瓦屋根の棟部が脱落
それぞれについて簡単に説明します。
①瓦屋根建物が倒壊
古い木造建築物の多くは瓦屋根となっており、瓦屋根の建物が倒壊したという印象が強いですが、報告書では以下のまとめがなされています。
1)宝立町鵜飼で倒壊した住宅の1階梁・桁には鋼材による部材が使用されていた。このことから店舗併用住宅などで1階の壁が少なかったものと推測される。周辺の建築物の被害も1階の前面間口が開口となっている店舗併用住宅の残留変形が大きかった。近傍の屋根瓦の被害は極少数に限られていると見受けられた。
2)正院町正院の被害は倒壊を含む甚大なものが多かった。住宅と見られるものは少なくとも3棟倒壊していた。伝統的な構法による古い住宅で壁量不足が倒壊の主な原因ではないかと想像される。
3)正院町正院の他の倒壊建築物は使用されていなかったものが多いと想像される。うち、木造廃工場建築物には筋かいのような部材も倒壊現場で確認されたが、端部は釘打ちのみであった。その他、部分崩壊した住宅1棟、倉庫などの用途と想像される建築物3棟などの倒壊が確認された。
4)正院町正院の被害は倒壊・崩壊以外にも大屋根が崩壊した倉庫建築物、大きな残留変形を有する住宅もあった。瓦屋根の被害も多数見受けられた。現代的な工法の被害も一部確認され、寺社の鐘撞き堂の倒壊なども確認された。
報告書では、木造建築物の倒壊の原因は、空き家、壁の不足、金物の不足等と指摘しています。
⇒「屋根を瓦にしているから起きた災害」とは一言も記載されていません。
②瓦屋根の棟部が脱落
瓦屋根の被害については報告書では、以下のまとめがなされています。
1)調査した範囲ではほとんどの住宅が瓦屋根であったが,瓦屋根の被害は平部ではほとんど発生していなかった。これは、能登地方では古くから平部の瓦には葺き土を使わず、緊結線などで全数留付ける工法であったためと考えられる。
2)地震による屋根被害は棟部で発生していた。棟部は棟補強金物や芯木への留付けがなく、棟から緊結線を出してそれらを棟に沿って連結させて葺き土で固める工法が多く使われていた。また,半端瓦の留付けがなかったことも棟部が被害を受けた原因の一つと考えられる。
3)調査範囲では全体として古い住宅が多く、瓦屋根が「ガイドライン工法」で施工されたと確認できた住宅は2棟のみであった。「ガイドライン工法」で施工された住宅の瓦屋根は無被害であった。
4)瓦屋根の被害が生じた地域周辺では,築年数が経過した建築物の倒壊・傾斜、鐘撞堂の倒壊、吊り天井に埋め込まれた照明器具の脱落、墓石の転倒、ブロック塀の倒壊、アスファルト舗装面の亀裂等を確認した。
報告書では、瓦屋根の棟部脱落の原因は、棟部に棟補強金物や芯木への留め付けがなかったこと、半端瓦の留め付けがなかったことと指摘しています。
以前、全瓦連、全陶連で行った耐震シミュレーションの内容を紹介します。
旧耐震基準(昭和56年以前)瓦屋根木造住宅の耐震性能評価
国土交通省国土技術政策総合研究所の中川先生が行った耐震シミュレーション「wallstat」での結果を紹介します。
旧耐震基準(昭和56年以前)の瓦屋根を金属屋根に葺き替えしても同様に倒壊しています。
つまり、「屋根を瓦にしているから起きた災害と言われても否定できない」は正しくありません。
旧耐震基準の脆弱だった建物だから、震度7で倒壊したのです。
ちなみに旧耐震基準では、震度5程度で家屋が倒壊しないというベースラインに基づいて壁量が決められています。
そのため、屋根材が瓦でも金属屋根(トタン・ガルバリウム鋼板)でも旧耐震基準ギリギリの強度の建物であれば、震度7で倒壊する可能性は高いのです。
耐震シミュレーションについて詳しくはこちらの記事で解説しています。
屋根を耐震シミュレーション(wallstat/ウォールスタット)で検証したよ!
瓦屋根の建物における巨大地震対策について
2つの被害についてそれぞれの原因を把握した上で、その対策を検討しました。
①瓦屋根建物が倒壊 ⇒ 建物の耐震診断を行い、建物の耐震性能を向上させる
②瓦屋根の棟部が脱落 ⇒ 瓦屋根の耐震診断を行い、必要に応じて葺き替えを行う
それぞれについて詳しく解説していきます。
①瓦屋根建物が倒壊することを防ぐ対策について
建物の建設時期によって変わります。
- 1981年以前(昭和56年)(旧耐震基準の建物)
- 1981~1999年(新耐震基準の建物)
- 2000年以降(新耐震基準の建物)
1)1981年以前(昭和56年)(旧耐震基準の建物)
地方自治体では、旧耐震基準の建物に対する耐震診断について補助制度を設けています。
耐震診断をもとに、新耐震基準以上の耐震性に改修する場合にも、その一部を補助してくれるので、まずは各自治体へ相談してみましょう。
瓦屋根だけを金属屋根に葺き替えても、費用が高額となる割に耐震基準は満たさないので、コストパフォーマンスが高い耐震改修方法を検討してください。
2)1981~1999年(新耐震基準の建物)
地方自治体の耐震診断補助の対象外です。
新耐震基準の建物でも、その後の巨大地震(阪神淡路大震災)によって倒壊・半壊したことで、2000年以降さらに細部まで規定された基準があります。
耐震性に不安を感じる方は、費用はかかりますが2000年基準を満たしているか耐震診断をされることをオススメします。
その診断結果によって、建物のどの部分を耐震改修するか検討できるようになります。
屋根よりも地盤、基礎、壁の改修が優先されるので、予算に余裕がある場合は、屋根の軽量化改修を検討してください。
3)2000年以降(新耐震基準の建物)
2000年に地盤調査の規定、地盤の耐力に応じた基礎構造、筋交い金物、柱頭柱脚接合金物、耐力壁の配置バランス、偏心率の規定が加わっています。
2016年の熊本地震で2000年基準の重要性が明らかになっていますので、耐震診断を受ける必要はあまりないと思われます。
どうしても耐震性に不安を感じる方は、費用は高額となりますが、瓦屋根から金属屋根への葺き替えを検討されることも一つの手段となります。
②瓦屋根の棟部が脱落ことを防ぐ対策について
建物の建設時期によって変わります。
- 2001年以前
- 2001~2021年
- 2022年以降
1)2001年以前
2001年以前の建物の瓦屋根は巨大地震で被害を受ける可能性があります。
地方自治体によっては、瓦屋根の耐風診断に補助制度を設けていますので、お問い合わせください。
地方自治体から有資格者の瓦工事店を紹介してもらえることもあります。
日本瓦屋根棟部では巨大地震で被害を受ける可能性が高いので、瓦屋根の耐震改修工事を行いましょう。
2)2001~2021年
2001~2021年の建物の瓦屋根は、日本瓦屋根棟部において巨大地震で被害を受ける可能性があります。
地方自治体によっては、瓦屋根の耐風診断に補助制度を設けていますので、お問い合わせください。
地方自治体から有資格者の瓦工事店を紹介してもらえることもあります。
診断結果によっては、瓦屋根の耐震改修工事を行いましょう。
瓦屋根は屋根材の中でもっとも耐久性があり、60~年と言われていますので、他の屋根材へ葺き替えるとコストパフォーマンスは低下することをご承知おきください。
3)2022年以降
2022年1月より瓦屋根の留め付け方法が厳格化されており、巨大地震・巨大台風で被害を受ける可能性はほとんどありません。
まとめ:CBCテレビ「屋根を瓦にしているから起きた災害と言われても否定できない」は誤報である
1か月が経過した中でも、多くの方が避難や不自由な生活をされており、一日も早く復興されますようにお祈り申し上げます。
CBCテレビ「屋根を瓦にしているから起きた災害と言われても否定できない」は誤報です。
旧耐震基準の建物だから、被害を受けるのです。
平成30年時点、戸建住宅の耐震化率は約81%で、まだ約560万戸で耐震性が不十分と推定されています。
屋根(瓦、スレート、金属屋根)の種類に関わらず、昭和56年以前の建物は耐震診断を受けるために各自治体へ相談してください。
屋根に関してお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。
神清からのお願い
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